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“No UI”というデザインは、世界を変えるのか?

この記事は2015年12月7日に書かれたものです。内容が古い可能性がありますのでご注意ください。


“No UI”というデザインは、世界を変えるのか?

はじめに

「No UI」という言葉が巷に広がり始めてまだそれほど長い時間は経っていません。聞いたこともないという人も多いのではないでしょうか。しかし「No UI」という言葉が意味する概念に関しては、古来より多くのWebデザイナーやエンジニアを腐心させてきた課題に対する一つの理想解でもあり、また誰もが思い描いたり、映画の中で見たことがあるような、意外と身近にある想像の産物でもあるのです。それが今、複数のテクノロジーにより、現実となりつつあります。今回は、あまりに新しく抽象的であるが故に、言葉の定義に未だ揺らぎが残る「No UI」という思想に関する説明と所感を、拙稿ながらまとめてみることにします。

“No UI”とは何か?

まず、私が検索した内で、”No UI”について最も明快且つ詳細に語られていたのは、Techcrunchの「No UI Is The New UI」という記事です。記事内で、筆者であるTony Aubeは、次の2つのサービス(アプリ)を引き合いに出しています。

https://getmagicnow.com/

Magic

https://operator.com/

Operator

どちらもホームページを見ると、キャッチーな謳い文句とエモーショナルな説明動画に終始しており、一見しただけではどのようなサービスかピンとこないのですが、ざっくりまとめると、ジャンルレスなコンシェルジュサービスと言ってよいでしょう。SMSやLINEのような入力フォーマットに、まるでショップ店員に話しかけるように「これこれこういう服が欲しいの」とオーダーすれば、それに見合った内容を返してくれるのです。

このサービスが現状のWebサイトにおける情報設計に対するアプローチを真っ向から否定していることにお気づきでしょうか。様々な検索軸を用意し、メニューバーを作り、ナビゲーションを作り、パンくずリストをつくる必要が、無くなるのです。インターフェースにはテキスト入力領域を一つ用意しておくだけで構いません。ナビゲーションを排除し、会話によって目的に到達する、これが”No UI”という発想です。

このような非常に挑発的でドラスティックな思想が出てくると、それに伴い必ずと言っていいほど「Webデザイナー不要論」を唱える者が現れますが、しかし、それは早計でしょう。このことについては、「No UIはデザインを進化させる新しい概念」という記事でも語られており、Tony Aubeも

As far as I know, UIs will still be needed for computer output.

という形で言及しています。input(入力手法)が変わったとしてもoutputの存在自体は変わらないのであるから、UIは同様に必要であるという至極最もな話です。

AIが”No UI”を可能にする

さて、先に挙げたOperatorやMagicといったサービスはどのようなテクノロジーにより、この擬似コンシェルジュサービス体験の提供を可能にしているのでしょうか?意外にも、このサービスを実現しているのは、ネットワークの先に待機している実在の人間(コンシェルジュ)達なのです。これでは残念ながら超ハイクオリティなコールセンターと大差がありません。いくら珠玉のサービスクオリティが担保されるとはいえども、そのサービスの提供元が「人間」であっては、このサービスが世界を変えるほどのインパクトは持ちえないでしょう。

孤独に苦しみ愛を求めるアンドロイドが描かれた映画「A.I.」が公開されたのが2001年。
2014年には、AIと人間の恋を描いた「her/世界でひとつの彼女」がアカデミー脚本賞を受賞しました。
ノンフィクションの世界においてはこの難問を完全にクリアするのは未来の話ですが、あるフィールドにおいては非常に精度の高いコミュニケーションが可能になったAIが現れてきています。それは「メッセージ(特にテキスト)」のやり取りです。テキストの解析は他の音声やジェスチャーなどよりも解析が簡潔に行えます。加えて機会学習における「Deep Learning」という技術が飛躍的な精度向上をもたらしました。前述のOperatorやMagicというサービスをAIで実現可能になる日は、きわめて近い未来にあると言えるでしょう。

“No UI”は既存のUIの概念を越える

ここまではディスプレイの中における情報設計に関するUIの可能性の1つとして、”No UI”について見てきました。
しかし、そもそもディスプレイをUIとしなければどうでしょう?

次の2つの動画を見てみましょう。

近い将来、この動画のように、ジェスチャーや脳波がinputとなり、様々なデバイスの操作を行う未来をTony Aubeは示唆しています。
このようなテクノロジーの進歩により、「デザインする」という作業は大きな変化を求められることでしょう。このテクノロジーとデザインの相互依存関係について、彼は次のように語っています。

A change in context or technology most often requires a different design approach.

テクノロジーの進歩によりデザインは変化を求められる一方で、テクノロジーの進歩を実現するためにはデザインからの異なるアプローチが必要になるということです。彼が挙げている自動車の例は非常に明快で的を射ています。

そして”enchantMoon”が生まれた

Webにおける標準的な情報設計、アイコンと同じように、”OS”のUIにおいても様々なアイコン、シンボルが使われています。普段我々が目にするWindowsやMacのような今や常識ともいえるその世界観に対し、それが本当にベストなのか?という根源的な問いを発し、その1つの解としてユビキタスエンターテインメント社が生み出したのが、既存のOSとは一線を画すUIを前提とし、それに最適化されたハードウェアを備えた挑戦的なデバイスである”enchantMoon”です。

http://enchantmoon.com/ja/

enchantMoon

enchantMoonも、ディスプレイという領域に束縛された既存のUIを刷新する概念として、enchantMoonのUIを、”No UI”と名付けています。前述のWebにおける”No UI”という概念と同様に、既存のUIに対するアンチテーゼとしてこの言葉を用いている点は単なる偶然とは思えず、今のUIに対する潜在的な不満と苛立ちに端を発するイノベーションであるという点において共通していると言えるでしょう。

(しかしながら、残念なことに、このenchantMoonはつい数日前に販売終了となってしまいました。)

“No UI”というデザインは、世界を変えるのか?

“No UI”という逆説的なユーザインターフェースの提唱は、近未来性と反体制を兼ね備えた魅惑的な用語です。そして名前に違わず今までの情報デザインとは異なるアプローチによるサービスを生み出す可能性を、大いに秘めていることでしょう。
しかしながら、このように、テクノロジーの発展とデザインの発明により、それを使うユーザの体験が変わっていくというのは、今に始まったことではありません。ファッションブームが数年単位で繰り返すように、あるいはゴシック建築の揺り戻しとしてルネサンス建築が生まれたように、トレンドというのは振り子のように反復を繰り返しながら、その反動を原動力として昇華していくものなのです。いちエンジニアとして、その揺れ幅に心を躍らせながらも、振り回されることなくユーザに適したUIの構築を心がけていきたいものだなぁと、そんな風に思ったりしながら、今回のNo UIに対する説明を終わりにしたいと思います。

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